#15 児童養護施設での知的障害児支援

心理シリーズ

 今回は、児童養護施設に入所中で、知的な面で知的障害との境界域にある子ども、あるいは軽度の知的障害がある子どもについての支援について書きたいと思います。

 今回は、かなり対象を限定した話になります。対象となるのは、児童養護施設に入所中の小学校低学年から中学年位の子どもで、家に帰ることが想定しにくく、施設から自立する必要があると考えられる子どもです。このような子どもは、そう多くはありませんが、一定の数いるのも事実です。

 もし、施設入所前に知的に課題を持っていることがはっきり分かっていれば、児童養護施設ではなく知的障害児施設への入所を考えるのが一般的です。しかし、施設入所前の検査結果で知的な課題があるかも知れないと分かっても、施設入所前の家庭環境が劣悪だったり、子どもに対する保護者の関わりが不適切だったことが明白だったりして、施設入所することで生活環境や学習環境が整うことで子どもの成長が見込めるような場合、児相の担当者としては、期待も込めて知的障害児施設ではなく、児童養護施設への入所を考えることもあります。

 児童養護施設入所後、環境が整うことで、もともと子どもが持っていた力を発揮できるようになり、知的な課題を心配することがなくなる子どもも、もちろんいます。

 しかしながら、環境が整ったとしても、なかなか子どもの力が伸びず、入所後に実施した検査(時期は様々ですが)の結果でも、入所前の結果とあまり変わらない場合も出てきます。

 このような場合に、子どもへの支援をどう考えていくのか?というのが、今回のテーマです。

 このような場合、子どもの学校や施設での状態が大きな判断材料になります。学校で教科についていけないことがあっても、学校や施設での生活が落ち着いている、例えば、友達とのトラブルがなかったり、職員との関係も取れているような場合は、思春期になるまで、それまでの生活を変えようとすることがないことも多いです。そのような場合、学校では通常級での生活が継続していく訳ですが、学業面では通常級の内容やペースについていけることは少なく、授業中は大人しくして目立たないようにしており、面倒見の良い友達にお世話されていることも多いです。

 しかし、学年が上がり小学校高学年になってくると、周囲の子どもの成長、いわゆる思春期に入ってきて、自分のことやその場の状況を客観的に見ることができるようになってきて、自分のことだけでなく周囲のことも考えながら自分の行動を調整することができるようになってきます。そのような周囲の子どもの成長に対象の子がついていけなくなると、周囲の子どもと話題が共有できなくなったり、あるいは、それまでお世話をしてくれていた子どもも、その子が年齢と比較するとあまりにも幼い言動をすることで、その子から距離を取るようになったりして、その子は孤立感を深めてしまうことになったりします。

 そうした不満を施設の職員に話したとしても、職員からすると、周囲の子ども達の成長は分かっているので、年齢相応の、自分のことだけでなく周囲のことも考えながら行動するようにアドバイスをしたりするのです。そのこと自体は、全く間違っているとは思いませんが、その結果、本人からすると、友達からも職員からも『理解されない』感覚になり、それまで自分を受け入れてくれていた友達や職員から否定されたように感じてしまい、周囲に反発して攻撃的な言動をしてしまうという事態になりかねません。

もし、ここで年齢相応の成長する力があり、一緒にどうすればよいのか考えてくれるような人がいれば、自分の言動を振り返り言動を修正しようとすることも起こるのでしょうが、もともと成長する力が弱い場合は、何が起こっているのか理解できないので、周囲が支えようとしても、なかなか言動の修正につながらないことも多く、反発としての攻撃性だけが目立ってしまうこともでてきます。こうなってくると、学校や施設内で問題となり、児相の担当者としては、このまま児童養護施設での生活を継続してよいのかという課題に直面することになります。

 その先、担当者にとっては『子どもの意思の尊重』という理念を踏まえつつ乗り越えなければいけない課題となります。この理念自体は、当たり前のこととして尊重しなければいけないことですが、今回対象となるような子どもに、『これからどこで生活したいか?』と単純に聞けば、今の施設での生活を望むに決まっています。家庭での生活イメージはないか悪いでしょうし、自分が大人になっていくことをモデルにするのは、同じ施設の年上の子どもだったり職員だったりするでしょうから、他の生活の場所を考えることは難しいでしょう。

また、仮に違う施設のことを、本人に合った施設だと説明したからといって、慣れ親しんだ今の施設の生活以外をイメージすること自体が難しいでしょう。

それでも、家に帰ることができる可能性があるのであれば、子どもは多くの場合、家に帰りたいと望んでいるので、知的障害児への支援を前提にした家庭生活を検討することができるでしょう。

しかし、家に帰ることが難しく、元の施設に戻ることも難しい場合、違う施設への入所を説得することになりますが、本人からすると全く知らない施設への入所は頑として拒否してしまうことも考えられ、そうなるとその子への支援が暗礁に乗り上げてしまうことになりかねません。

 

児童養護施設に入所中で、知的な面で知的障害との境界域にある子ども、あるいは軽度の知的障害がある子どもで家に帰ることが判断できず、施設から自立していくことが想定される子どもへの支援について、私は2つの理由でなるべく早く知的障害児への支援を視野にいれたかかわりをすることが大切だと考えているのですが、その内容については次回書きたいと思います。

 

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