#17 養護施設での知的障害児支援2

心理シリーズ

#15で児童養護施設入所中で知的な課題があり、家庭に帰ることが難しいと判断できる子どもの場合は、なるべく早い時期から、知的障害の支援を視野に入れて関わっていくことが大切だと書きました。今回は、その理由について書きたいと思います。

その理由は、大きく言うと2点あります。それは、知的障害の支援を受けることが遅くなると、

  • 自己肯定感が下がる可能性が高いこと
  • 子どもが自分の未来を信じられなくなること

という2点です。

まず、1点目の「自己肯定感が下がる可能性が高いこと」についてですが、知的に課題があるということは、(必ずではありませんが)学習面でつまずく可能性が高くなります。実際には、小学校低学年のうちの学習面でのつまずきは、あまり大きな問題になることは多くありません。#15で書いたように、周りに世話好きの子どもがいたりして、助けてくれたりもしますし、「友達は仲良く」と大人が言うことに忠実な子どももいて仲間に入れてくれたりもしますので、大きく自己肯定感を下げることは少ないと思います。しかし、小学校中学年から高学年になってくると、周りの子ども達の成長もありますが、自分はできていないことが自分自身で分かるようになってきます。そうすると、何とか周りに追いついていこうと、一生懸命背伸びをすることになります。背伸びをすること自体は悪いことだとは思いませんが、背伸びをして努力して、周りに追いついていければいいですが、なかなか追いついていけない事も多くなり、『自分は頑張っても駄目だ』と感じることが多くなる可能性が高くなります。

また、できないことや分からないことがあると、言動がその場に合わないことも出てきたりするので、場合によっては、周りから距離を置かれるようになってしまい、自分は頑張っているのに、周りが理解してくれないと、周りに対して攻撃的な言動が目立つようになってしまうこともあります。また、周りに攻撃的にならないとしても、なるべく目立たないように大人しくして、自分に火の粉がかかってこないように縮こまってしまうようなお子さんもいます。縮こまってしまうことは学習や友達関係で何が起こっているのか分からないまま過ごしてしまうことにつながります。いずれにしても、自己肯定感が下がってしまうことで起こってしまうようなことだと思います。

理由の2点目は、「子どもが自分の未来を信じられなくなること」ということです。この点は、1点目の「自己肯定感が下がる可能性が高い」ということがあってのことなのですが、自己肯定感が低くなり、周囲に自分が受け入れて貰えないように感じてしまうことが継続すると、「もう、どうなってもいいや」と自暴自棄のような気持ちになり、目の前のことだけに反応して刹那的な言動を繰り返してしまうことになりかねません。

自分の未来の姿(これから先、こうなれればいいなという自分の姿)を信じられるためには、これから努力すればそうなれると感じられることが必要なので、自己肯定感が下がっていないことと自分は周囲から受け入れられているという感覚が大切だと思います。

こういう状態になる前に、「自分もできるんだ」と自己肯定感が下がらないようにするためには、『自分は少し他の人からの助けが必要だが、助けがあれば、自分もできる』というような感覚を子ども自身が感じる必要があると思います。それが可能になるためには、現状の教育環境の中では、知的障害支援につながる支援級をなるべく早く利用し、「自分もできる」という感覚を育て、同じ環境から成長していくモデル(例えばクラスの先輩など)を見ていくことが大切だと思います。

以上、自己肯定感が下がらないことや、自分の未来を信じられるようになるためには、自分の力に適した教育環境の中で成長していくことが必要だと思うので、早い段階から知的障害の支援を視野に入れて関わっていくことが大切だし、本人が知的障害に対する支援を受け入れることができるような関わりが必要だと思います。

以上の2点に加えて、今回対象と考えている子どもは、児童養護施設からの自立を想定しています。児童養護施設からの自立は、現状では生活する場所と就労(あるいは進学等)の場の両方が同時期に新しい環境になってしまうので、知的な課題がなくてもかなりの適応力が必要となります。この両立が難しいからこそ、最近、施設入所している子どもの自立について支援できる年齢を引き上げる議論されているのですが、それはともかく、今回のように知的な課題がある子どもの場合は、一人で自立生活をするということはなかなか難しいのです(この難しいの中には、単に仕事ができるようになるということだけでなく、金銭管理や仕事がない休日をどのように過ごすのか、といった余暇の過ごし方、あるいは新しい人間関係をどのように作っていくか、寂しくなった時どうするか等、様々な要素があります)。

また、知的に課題がある場合、新たに発生することを実際体験する前に、こんなことが起こるかも知れないとイメージすることが難しいために、周囲は起こるであろうことに対する準備をした方がよいと感じていても、本人は実感がないためになかなか準備しようとする気持ちになれず、逆にうるさく言う周囲に対して攻撃的な気持ちになってしまうことも多いのです。

こうした状況にならないためにも、なるべく早く知的障害支援を視野に入れた関わりが大切なのではないかと感じます。

そのために子どもにどのような支援をした方がよいか、あるいは注意点なども話すつもりでしたが、思いのほか長くなってしまいました。子どもへの支援については、次回、書きたいと思います。

 

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