#21 見立て共有のための土台作り

心理シリーズ

ここ3回は、児童養護施設に入所中で知的に課題があり家に帰ることが難しいと判断される子どもに対する支援について考えてきました。これまでは主に子どもの状態を中心にして考えてきたのですが、今回は、子どもを取り巻く職員の連携について考えてみたいと思います。

それではまず、前回までのような子どもの将来について考えることになったきっかけを想定してみましょう。色々なきっかけが考えられますが、今回は、他の子どものことで施設に訪ねてきた児童福祉司に、施設職員が担当している子どもについて、学校では学習についていけていないようだし、施設内でも年齢と比較すると幼い言動をするので、同年代の中でも浮いた存在になってしまっているようだ、というようなことについて相談したと仮定しましょう(その子どもは、その児童福祉司が担当している子どもだと想定します)。

この時、児童福祉司がどのような判断をするかで、その後の支援の展開が違ってきます。これまで書いてきたように、子どもの年齢や、その時の子どもを取り巻く環境(例えば、子どもの年齢がまだ小学1年生で入学したばかりだとか、施設の担当者が心配性でいわゆるやや大げさに話す傾向があるとか)によって判断は異なるので、こうするのが一番という『正解』というものはありません。

子どもの一番近くにいる施設の担当者が心配していることをどのように考えて対応するかです。とりあえず施設職員の話を聞いて、もうしばらく様子を見て今の状態が続くようなら、また、連絡下さいと伝える事もできるでしょう。

あるいは、福祉司が、その子どもは入所前の知能検査で知的障害に該当するほどではないけれども、知的障害との境界に近い結果で、心理司の意見では、入所後の子どもの経過をみていく必要があると判断していたことを覚えていたとしましょう。そこで、今後、どのような支援を行うかを検討するために、改めて心理司に検査の依頼をしますと伝えることもできます。

このように、福祉司が心理司の判断を共有していたということは、子どもへの支援を考える際には大切なことです。たとえ、心理司から直接聞くことはなかったとしても、施設入所前には必ず子どもの状態を確認(この中には検査等も含まれます)し施設職員に読んで貰う為の書類を書くので、児童福祉司は目を通し、その子どもにはどんな課題がありそうなのかをイメージしておくことが大切です。

児童福祉司は担当するケースをたくさん抱えていますし、前の担当者が異動して引き継いだケースという場合もあるので、担当しているすべての子どもについての課題を覚えていることは大変なことですが、特に施設に入所している子どもについては、どの時点かはともかく関わる必要は必ずあるので、施設入所中の子どもについての課題は把握しておくことが大切です。

特に施設に入所していて保護者対応があまりないような子どもについては、長い見通しのなかで支援を考えていく必要があるので、他職種の意見も踏まえ、その子どもにどのような課題があるのかを確認しておくことが大切です。

さて、施設職員に改めて心理司に検査を実施するように伝えた福祉司としては、児相内で、施設職員から相談があり心理司の再検査を依頼することになる訳ですが、なぜ再検査が必要なのかを心理司に伝えるためには、その子どもの現在の状態と職員のニーズを具体的に捉えて、何を確認するための再検査なのかを捉えておく必要があります(単に施設の職員から子どもが落ち着かないと相談されたから再検査をして欲しいという理由だけでは心理司としては、どんな検査を選択すればよいのか判断できず、子どもの状態や職員のニーズを再確認しなければならないということになりかねません)。

ここで、福祉司と心理司が充分にコミュニケーションが取れて、再検査の目的やその後の支援方針も共有できればよいのですが、お互い忙しいなか、メールやメモ等、間接的な手段だけでコミュニケーションを取ろうとすると、再検査の意図やその後の支援方針等の検討が充分できず、心理司が施設と連絡した際に、施設職員の心配を直接聞くこととなり、初めて子どもの状態が心理司に伝わることになりまねません。こうしたことは結果論なのですが、心理司が福祉司に不満を持つきっかけになったりもします。

こういう不満が積み重なると、子どものへの支援方針の検討そのものが充分できない状態となってしまうこともあり、福祉司、心理司ともに注意しておく必要があります。担当者間のコミュニケーション不足の結果、支援の開始が遅くなるというのは子どもにとって不利益となるので、職種間のコミュニケーションには充分気をつける必要があります。 さて、長くなってしまったので今回はここで終了としますが、次回は、この続きを書きたいと思います。

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