今回は、ネグレクトが子どもにどのような影響を与えるのかを書きたいと思います。
ネグレクトは、厚生労働省の定義では、ちょっと長いですが引用すると、『児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食または長時間の放置、保護者以外の同居人による前二号(身体的虐待、性虐待)又は次号(心理的虐待)に掲げる行為と同様の行為の放置その他の保護者としての監護を著しく怠ること』となっています。法律の文章は1回読んだだけでは分かりにくいですが、結局は、食べさせないこと、放置すること、他の人の虐待を放置すること、その他保護者として子どもを監護しないことと言っているようです。分類の方法としては、身体的ネグレクト、情緒的ネグレクト、教育ネグレクト、医療ネグレクトといった分類の仕方もあります。最近では心中もネグレクトに含むと考えられているようです。いずれにしても共通するのは子どもへの不作為(子どもにとって必要なことをしないこと)ということだろうと思います。
日本の虐待防止法上では、身体的虐待、性虐待についで3番目に定義され、4番目に心理的虐待が定義されていて、他の3つの虐待と並列されて記述されていますが、英語では、「abuse」(他の3つの虐待)と「neglect」 は区別されています。この違いは、日本語では「作為」と「不作為」の違いで、実際には子どもに対して不適切な何かをする「abuse」と必要なことをしない「neglect」の違いです。
ネグレクトを受けた子どもの精神的特徴として、日本小児科学会では、
①乳幼児期には発達の遅れ(特にことばの遅れ)
②幼児期には集中力のなさ、多動、攻撃性、衝動性
③学童期には学習困難、自己評価の低さ、協調性のなさ
といったことをあげています。それぞれの特徴は、ネグレクトに限って起こるものではなく、他の要因でも起こり得るような内容です。例えば、ADHDのお子さんでも同じようなことが起こる可能性があります。
ADHDの原因については、まだ明確にはなっていませんが、脳の発達の偏りや脳内伝達物質の関与など、大人側の育て方や関わり方ではなく、子どもの身体(特に脳)に原因があるのではないかと言われています。ADHDのお子さんは、新たな刺激があるとすぐに反応してしまう傾向を持っているため、例えば、大人が一緒に遊んでいても、大人との遊び以外の物が見えたり音が聞こえたりすると、そちらに注意が向いてしまうため一つの遊びに集中することが困難な傾向を持っています。そういう傾向が遊び以外の、例えば学童期になって学習場面でも同様の傾向があるために、先程あげた3つの特徴が現れることがあります。
一方、ネグレクトによる影響は、子どもの身体ではなく大人側の育て方や関わりの問題であるとされます。人の乳幼児期は元々注意を集中することは難しい傾向を持っていますが、ネグレクトの場合は、周りの大人の子どもへの関心そのものが低く、子どもに対する声かけが少なく言語的な刺激が少なくなることで、小児科学会があげている特徴の中の①言葉の後れにつながる可能性があります。
また、一般的な発達では、例えば、人形遊びをしていたとして(どんな遊びでもいいのですが)、そこに大人が参加することで、大人が人形を持って話しかけたり他の人形を持ってきたりして人形遊びが続くようにすることで、子どもも少しずつですが1つの遊びが続くようになります。
それに遊びの中で大人が子どもの感情に反応あるいは共感するような働きかけをすること(こういう働きかけを情動調律といいます)で、子どもは自分の感情を認知したりコントロールすることができるようになっていきます。しかし、ネグレクト状態では、子どもの遊びに大人が関心を持たないことで情動調律そのものが起こりにくいので、子どもは自分の感情を認知することやコントロールがすることが難しくなります。これらのことから特徴の②のような集中力のなさや多動(関心に基づいて身体が動いてしまうこと)、感情をコントールすることができず攻撃的になったり衝動的になったりする可能性が高くなります。
特徴の③は、先程書いた①や②の特徴があることで、二次障害として起こる状態ではないかと思います。
このようにネグレクトの子どもに対する影響は、大人からの関心が薄く関わりそのものが少なくなることで、いわゆる愛情剥奪(あるいは遮断された)状態になってしまい、大人の関与が極端に少なくなることで、人との距離をどのように作っていけばよいのか分からないことが、大きな影響だと思います。 ネグレクトの定義や分類では、並列的に様々な影響があげられていて、それぞれ、もちろん子どもにとっては大きな影響なのですが、長い目で見た場合、大人の無関心による対人関係に関する影響は、ネグレクトの最たる影響だと私は思っています。
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