#1 保護者(養育者)と児童相談所のあいだ

あいだシリーズ

 「児童相談所」といちいち書くのは大変なので、これからは「児相」と略して書くことにします。これから書くことは、私個人の見解であって、私が所属していた児相の見解ではないので、その点、誤解のないようにお願いします。

 児相は、原則的には18才未満の子どものことであれば、どんなことでも相談してくださいという機関ですが、近年は、児相と言えば「虐待」ということになるので、「虐待事例」における保護者と児相のあいだについて話してみたいと思います。

 まず、この「保護者」という言葉ですが、親権者はもちろんのこと、最近は親権は持っていなくても、子どもを養育している方はたくさんいるので、今日は、そういう方々を含めて「現に子どもを養育している大人」という意味で、「保護者」という言葉を使います。虐待防止法では「現に子どもを監護しているもの」と定義されていますが、「監護」という言葉は、日常的にはあまり使わないので「養育している大人」という意味で「保護者」という言葉を使いたいと思います。

 さて、虐待については、1933年に最初の虐待防止法が制定されていますが、2000年に現在の虐待防止法が制定されています。

 2000年の虐待防止法制定は、児相にとっては大きな転換点になったと思います。それまでの児相は、1933年の虐待防止法があったとはいえ、「虐待」という言葉はあっても、虐待対応しているということはほとんどありませんでした。児相は「相談したい内容」いわゆる「相談ニーズ」を中心に相談活動を行う機関でした。

 相談機関というのは児相に限らず相談ニーズ応じて相談活動を行うものだと思います。なので、児相も相談ニーズに応じて相談活動を行い、相談ニーズがなくなれば相談関係は終了していました。相談関係の終了は、最初に相談があった課題とされたことが解決されていなくても、相談者の相談ニーズがなくなれば相談関係は終わっていました。簡単に言うと、最初に相談に来所したのが保護者だとして、保護者の相談ニーズがなくなり来所することがなくなれば、相談関係は終了していたということです。

 ところが、虐待防止法制定以後は、「虐待行為を行う」のは保護者であり、虐待行為をなくすことが児相の役割になりましたから、虐待事例については、保護者の相談ニーズがないからといって、虐待行為がなくならなければ、あるいは虐待行為はなかったと確認されなければ、児相は相談関係を終了にすることはできなくなりました。

 虐待防止法制定以降、「相談ニーズ」を中心に考えて相談活動を行ってきた児相にとっては、保護者への関わりを大きく変更しなければならない事態となりました。以前なら、保護者の相談ニーズがなくなって児相への来所が途絶えても、(担当者が心配することはあっても)児相が保護者を追いかけることはほとんどありませんでした。ところが、虐待防止法制定以降は、それでは社会的に許されなくなり、保護者を追いかけ、虐待行為がなくなったと確認できるまで相談関係を続ける必要が出てきた訳です。そんな方法は、以前の児相は培ってきていないので、新たな方法を探る必要が生まれたのです。

 一方で、2000年の虐待防止法が制定される頃、福祉の世界では「社会福祉基礎構造改革」という名で、相談者と支援者とは対等であるとの理念を、どう実現するかを現場の中でも模索しているような時期でもありました。児相の中でも、保護者や子どもの「治療」だったり「変化」を促すことを、支援者が行うだけでなく、相談者が主体的に取り組むためには、どんな方法があるかを探っていました。

 ところが。虐待防止法制定以降、虐待行為をする保護者は悪者で、子どもは虐待行為から守られるべき存在となり、児相が虐待事例の保護者に行うのは、虐待行為の認定、虐待行為が行われていないかを監視、虐待行為をしないように指導するという役割になりました。

 このことは、児相は保護者と対等に支援を行うということではなく、児相が「監視と指導をする」ことが当たり前の関係性になってしまっていることを児相職員は自覚しておく必要があると思います。児相による「監視と指導」に対して保護者が反発を感じるのはある意味当たり前だと思いますし、「保護者と児相とのあいだ」は、そういう関係になっていることを自覚した上で、どのように保護者に対して接していくかを考えていく必要があると思います。

 また、児相は保護者に対するかかわりを「援助する」や「支援する」という言葉を使いますが、この「援助」や「支援」という言葉は、「虐待事例」にかかわる時にはとても難しいと思います。児相側からいうと、「虐待行為」をしてしまうのは保護者なので、「虐待行為」をしない養育を期待することになり、「虐待行為のない養育方法」を行ってもらうための「援助」や「支援」をすることになります。  一方、保護者側からいうと、いったい、どの行為を「虐待行為」と児相は認定したのか?という点から疑問を感じ、「虐待行為」で児相が家族に関わること自体が、保護者失格の烙印を押されてたかのような印象を持ち、そんな児相からの「援助」や「支援」はして欲しくない、と感じてしまう保護者も少なからずいると思われます。

 なので、虐待事例にかかわる場合、かかわりの最初から対等ではなく、保護者には児相に対する否定的な感情が起きているかもしれないことを前提にかかわっていくことが大切だと感じています。

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