#27 ネグレクトが子どもに与える影響2

心理シリーズ

前回、ネグレクトが子どもにどのような影響を与えるのかについて書きましたが、今回はネグレクトのことを書いていて思い出した子どもについて書きます。

まず、現在、その子と連絡が取れる状態ではないので、こういうネット上で書くことの同意が得られません。なので、その子のことをベースにしながらも、かなり脚色して書くことをご了承下さい。

その子は、私がある児童相談所に児童心理司として異動した時、前任から引き継ぐ形で会うことになりました。その子は私が担当する前に保護者のネグレクトにより幼児期に里親さんに委託されていましたが、里親さんとの関係が不調で、その後、児童養護施設に入所しました。私が担当するようになったのは、施設入所している時で、当時、小学4年生くらいだったと思います。里親さんとの関係が不調というのは、別に里親さんがその子に対して虐待をしたということではなく、里親さんになかなか懐かないので、里親さんから児相に相談があり、児相にも何回か通所したようですが、あまり変化はなく、結局、一時保護をした後、施設に入所することになったようです。

施設生活でも、特に問題となるような言動はなかったのですが、前任者としては、里親さんに懐かないことで委託解除になっていたため、施設入所後、課題となる言動が出てくるかも知れないとの危惧感から私に引き継いだようです。

私が初めてその子と会ったのは、先程書いた通り小学4年生の頃だったのですが、当時、その子は学校に通っていて、地域の野球チームにも所属し目立つような活躍をする子ではなかったですが、まあ、真面目に通っていたという印象でした。その子とは、月1回程度の頻度で面接を行っていました。数回面接したところで、私は違和感を覚えました。その違和感は、毎回、同じ距離感で、私とその子との距離が近づいている感覚が全くなかったのです。それまでの私の経験では、個別に面接することになるので、回数を重ねると子どもとの距離感は近づいていくことが多かったのです。しかし、この子は複数回の面接を重ねても、距離感は変わりませんでした。これは、このまま言葉による面接を重ねても距離感は変わらないと判断するしかありませんでした。

ところで、愛着障害は大きく分類すると、反応性愛着障害(人を信頼できないため甘えられない)脱抑制型愛着障害(無差別に甘えるが、個人的な関係は作れない)という2つに分類され、この子は行動の特徴からどちらかと言えば反応性愛着障害に近いと感じました。

そう判断したのは良いけれど、実際この先どのような面接をしていくのか悩みました。おそらく、言葉ではなくスキンシップを介して身体で感じるような人への信頼感が必要だろうとは思いましたが、既に前思春期に入っていると思われる子ども相手にスキンシップを前提としたプレイセラピーのようなことは考えにくいし、子どもも受け入れにくいだろうと思いました。悩んだ末考えたのが、触れあい動作法でした。それまで私は動作法という名前は知っていましたが、脳性麻痺のお子さんに適用するもの位しか認識がありませんでした。触れあい動作法は、本を買って勉強してみると、従来の動作法をベースにしながらも対象を限定せず、動作法という技法の中で、対人関係の変化を促すものとして位置づけられていました。

本を読んだだけで研修を受けた訳でもありませんでしたが、動作法の実施が目的ではなく、身体を通して人への信頼感を感じて貰うことが目的でしたので、とりあえず背中に手を当てて温かみを感じて貰うことと、座って後ろ向きで私にからだを預けることを面接の最初にルーティンで実施することにして、そのために面接場所を椅子とテーブルの部屋から畳の部屋に変えて貰いました。

幸い、その子は動作法を抵抗なく受け入れてくれました。回数を重ねるうち距離感が近くなってきていることを感じました。特にその子から言葉での表現はありませんでしたが、面接を始める時にはルーティンの位置に何も言わなくても来るようになりましたし、私に身体を預けている時に身体の力が抜けていることからリラックスしていることが感じられました。

そのうち、その子から実の親に会ってみたいという希望が出始めます。私はその希望を聞いて、その子の「家」のイメージがどんな感じなのかを確認したくて「家」の絵を描いて貰いました。その絵は、和風の正面から見た「家」でしたが、安定感があり、玄関や窓もありました。その子は里親の家をイメージして描いたと言っていました。私は面接時のリラックスした姿と「家」の絵を見て、実の親との交流について進めてよいだろうと判断しました。

 その後、私との関係や施設でのその子の言動の問題ではなく、行政的な理由で年度の変わり目で担当を変わらざるを得ない状況となり、その子がその先どうなったかは分からないのですが、噂では中学校入学をきっかけに実の親元に帰ったと聞いています。

 在宅後も関わっていないので、実の親との関係がどうなっていったのかは分からないのですが、私としては触れあい動作法を活用してスキンシップを通した私との交流の中で人への信頼感が増し、間接的ではあるかも知れませんが、実の親との交流を希望するきっかけの一つなったのではないかと思います。

 その子の乳幼児期が、どの程度のネグレクト環境だったのか詳細は分からないので、はっきりしたことは言えないのですが、私との2年弱の面接で、ある程度人への信頼感が回復したと感じられたということは、ものすごく深刻なネグレクト環境ではなかったのかと思います。しかし、面接開始当初の距離感の縮まらない感じが継続していたとしたら、人を信頼するという感覚を持てず、表面上はともかく、対人関係面での支障がでたような気がします。

以上、今回は私の経験を書きましたが、少しでも参考になれば幸いです。

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