前回は、児童心理司と一時保護所心理士のあいだということで書きましたが、今回は、児童心理司と施設心理士とのあいだについて書きたいと思います。
施設心理士は、施設によって配置されていたりいなかったりがあると思いますが、それでも配置されている施設が多くなってきているでしょうか。配置されていても、常勤職か非常勤職かの違いもあると思います。複数いて常勤と非常勤という場合もあるでしょう。
さて、児相の児童心理司と施設心理士のあいだを考える時、最初に確認しておいた方がよいのは、それぞれの役割の違いです。児童心理司は基本的には児相にいて、療育手帳の判定業務だったり、方法はともかく子どもとの面接を行うことを主な業務としています。一方、施設心理士は施設にいて、やはり子どもとの面接だったり、カンファレンス、職員へのコンサルテーションなどが主な業務になっているものと思います。
両者の大きな違いは、子どもの生活が近くにあるかどうかです。この違いは、子どもと何をしていくかという選択の違いになってきます。生活が遠い児童心理司は、日常から離れたところでその子が抱えている課題に対する介入を考えることが多いと思います。このことは、いわゆる伝統的なというか、クリニカルな心理療法をベースとした関わりを検討できる環境にあるのだと思います。一方、生活に近い施設心理士は、子どもの日常から離れること自体が難しいので、クリニカルな心理療法を目指すことは簡単ではありません。この違いを両者は認識しておく必要があると思います。と言っても、施設心理士が配置されるようになってから、かなりの年数が経っていますので、施設心理士の方はこのあたりの認識は深まっているのではないかと思います。児相の児童心理司の方が(特に児相しか知らない場合は)、この違いの認識ができるようになるまで時間がかかるかも知れないなあと思います。それは、子どもの生活が近くにあるということが、具体的にはどんなことが起こるのかイメージすることが難しいからです。
このことは、施設心理士側から考えた方が理解しやすいかも知れません。おそらく、施設心理士になった方は、最初は子どもとの関わりや担当職員との関わり方に注目せざるを得ないと思いますが、経験を重ねるにつれて、自分一人でできることには限りがあることを感じるようになり、とすると、子どもに関係する職員(それは、身近では施設職員ですが、学校の先生だったり、お医者さんだったりを含むようになりますが)が、その子どもにどのように関わっており、どのような影響を与えているのかといった、言葉で言えば子どもに関わるチームに目を向けるようになっていくと思うのです。そのチームが、子どもに対して円滑にそして効果的に関わるためにはどんなことが必要なのかを考え、チームがよりよい方向で動けるためには、施設心理士としてどんなことができるのかを考えるようになっていくと思うのです。つまり、子どもとの面接だけでなく、子どもを取り巻く環境に対しても目を向けざるを得なくなっていくのが施設心理士ではないかと思います。
一方、児童心理司は、個別面接ができる構造が保障されるが故に、そして、同じ立場の同僚や先輩がいることもあって、クリニカルな心理療法を追求することがある程度、可能な立場にいます。しかしながら、前回の保護所心理士とのあいだでも話したように、施設に入所せざるを得ない子ども達には、セラピーの前にケアが必要であり、施設入所するということは、子どもにとっては新たな環境の中で自分の安心できる居場所を確保していくことが必要になるので、施設入所後は、しばらくはケア的な関わりがメインになっていく必要があると思うのです。
そうした、子どもにとっての必要な関わりの質の違いを、児童心理司は認識しておく必要があると思います。また、施設入所すると、一時保護の時とは異なり、どうしても面接できる頻度が減るために、児童心理司としての役割というか、子どもにとっての存在というか関係も異なってくるので、そのことに対する認識も必要になってくると思います。
施設入所後、最初の児童心理司の役割の一つとしては、ケアされている状況のアセスメントでしょうか。子どもは新たな環境に適応していくことになるのですが、傷つきが深い程、まずは傷つけられていた環境と同じような反応をしていまいがちです。一時保護所でも同様の傾向があると思いますが、家庭とは異なる大人の手が厚いことや、保護所心理士や児童心理司の関わりも早くできるために、比較的早く傷ついた環境に対する反応から抜け出すことができる可能性が高いですが、施設では一時保護所と比較するとどうしても大人の手は薄いですし、心理士などのかかわりにも時間がかかりがちです。そうすると、一時保護所で傷ついた環境に対する反応から抜け出していても、施設では元に戻ってしまう可能性があります。施設入所すると、一時保護所心理士のかかわりはなくなりますから、児童心理司が施設で子どもはどんな生活をし、どのようなケアがされているのか、そしてケアされている状況の中で子どもはどのような状態なのかをアセスメントする必要があると思います。 その他、入所後の時期によって、例えば進路のことや家庭との関係等、その子どもの性格、能力や施設職員との関係、家庭の状況など、時期によって様々なことが起こってくるので、その時期に合わせた関わりが必要だと思いますが、今回は時間がなくなってきたので、また機会があれば触れていければと思います。
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