児童心理司と児童福祉司のあいだについては、これまで2回書いていますが、その時は「見立ての共有」を中心に書いたと思います。今回は、心理司と福祉司のあいだでありがちなこと(気をつけた方がよいこと)について書きたいと思います。
児童心理司と児童福祉司は役割が異なるので、それぞれがその役割を認識しておくことが大切なのですが、同じ児相にいて同じ事例を担当し、会議でそれぞれ「担当」として発言することになるので、お互い相手に対してこうあって欲しいという期待を持ちやすいものです。その期待に応えてもらえないと、相手に対する不満につながります。もちろん、すべての期待に応えることは難しいですが、最低限、相手とのコミュニケーションを取る努力が大切です。
心理司から見て時々あるのは、例えば、一時保護している児童を家に帰すという判断を福祉司だけ(上司を含めてということですが)で行い、心理司は会議の場で、その判断を知るということが起こったりします。
最近の児相は、福祉司の採用数が法律で決まったこともあって、特に首都圏は、人材の取り合いになっている状況があり、福祉司としての経験が浅い職員も多くいます。そうした場合、異なる職種との連携についての経験が少なくて、心理司との意見が異なる場合、どう対応すれば良いのか分からず、福祉司の方針に反対されることを恐れて心理司と会議前に話し合わないということもあるようです。それは、例えば上司との話し合いで家に帰す方向となったのに、心理司の反対でその方針が覆ることを避けようとする思いが働いてしまった可能性があります。
福祉司は、事例の方針を決めるのは自分だとの思いが強く(それは上司を含めてということであり、また、特に虐待事例について強いと思いますが)、事例の責任を持つのは自分達だという思いがあり(裏返すと、何かあった場合に責められるのは自分達だとの思いもあるのだと思いますが)、心理司の意見を聞いていては判断のタイミングを逃してしまう可能性があるために、心理司とのコミュニケーションを後回しにしてしまう場合もあるかと思います。こうしたことが起こると、心理司としては福祉司への不信感を高めることになります。ただ、何もしなければ、それ以降、同じ事が起こる可能性が高いので、不満であることは表明しておいた方がよいかと思います。ただ、その際に、福祉司の立場について理解していることも伝え、それ以降の家庭へのかかわり方について、一緒に考えていこうとする姿勢が大切だと思います。
さて、福祉司から見て時々あるのは、心理司が実現することが難しいことを主張するということがあります。心理司からすれば、児童が困っている状況があるので、保護者にそのことを伝え、児童のことを理解し行動して欲しいと保護者の変化を望むのは当たり前のことなのですが、福祉司からすれば、児童の言動に困っているのは保護者なので、児童を変化させて欲しいと望む訳です。これは、親担当が福祉司で子ども担当が心理司であり一般的には親子並行面接を行っている児相が多いので、お互いが相手の変化を期待してしまうということが起こっています。この事態は、親子のあいだで起こっていること(お互い相手が変わる必要があると感じていること)を担当者が肩代わりして起こっていることがよくあります。こうした「にわとりが先か卵が先か」という議論は、あまりよい結果を生みません。場合によっては、心理司と福祉司のどちらが児相の経験年数が長いかとか、どちらが年齢が上かとかいう、いわゆる力関係で方向が決まったりしますが、それは事例とは関係ないことです。
では、どうしたらよいのでしょう?まず、対人援助の場では、相談される人(ここでは心理司や福祉司)は相談する人(児童や保護者)に心理的に巻き込まれやすい(相談する人の味方になりやすい)ということを認識しておく必要があると思います。ここでは、心理司は児童の、福祉司は保護者の味方になりやすいということです。面接の中では、もちろん、それぞれ相談する人に寄り添わないと「相談」そのものが成り立ちにくいでしょう。しかし、面接から離れた時にはその面接の中で何が起こっていたのか、それは、相談する人の言動の中身だけでなく、相談する人の言動は自分にどのような影響を与えていたのかを客観的に見つめ直すことが大切です。それが可能になるためには、一人だけで振り返るだけではなく誰かに話すことは有効な手段です。その意味でも、二人担当制は有意義なものがあります。
また、以前、話した「見立ての共有」ということについて、この家庭の中でどんなことが起こっているのか見立てていく(仮説を立てる)作業を、心理司と福祉司が一緒に行っていくものだという認識を持つことが必要だと思います。もちろん、心理司も福祉司も人間なので、先程言った児相経験年数のことや年齢のことが影響するのはある程度仕方のないことですし、相性のようなこともあるので一概には言えないですが、しかし、私たちはプロとして支援をしているので、なるべくお互いが対等な関係でコミュニケーションを取れるような努力をしていくことが大切だと思います。今言ったことは口で言うほど簡単なことではないですが、時々思い出して自分の姿勢をチェックしていくことが必要だと思います。
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