前回、児童心理司と児童福祉司のあいだ3ということで書きましたが、今回は、その4ということで、心理司と福祉司のあいだに起こりがちなことについて、架空の事例を通して書きたいと思います。
事例を紹介する前に、前回のことを簡単におさらいすると、福祉司は心理司と方針についての情報を共有しない場合があること、心理司は子どもが困っている状況を見て、周囲の状況とは関係なく子どもの困った状況を変化させて欲しいと、福祉司に希望するような場合があることを書きました。
さて、今回の事例について紹介しましょう。対象となったのは、5才の幼稚園年中の男の子(A君としましょう)。家のすぐ近くの公園で一人だけで遊んでいることが多く、近隣の人が心配して警察に連絡したところ、警察が保護した時、足に複数のあざがあり、家に連れて行き実母にあざの原因について聞いてみたところ、実母は私は知らないと答えたため、原因不明のあざがあること、一人だけで公園で遊んでいることが多いこともあり、虐待を心配した警察がA君を身柄付通告で児相に連れてきたため一時保護となりました。保護者は両親と1才の妹の4人家族。実父の就労状況は良好で、土日が休み。子ども好きらしく、休日には2人の子どもを連れてよく出掛ける姿を近隣が見ています。実母は、実父がいる時は明るい様子だけれど、実父がいないと、2人の子どもを抱えて気持ち的に余裕のない生活をしているようだとの近隣情報があります。また、妹が生まれるまでは、順調に幼稚園に通っていたけれど、妹が生まれてしばらくしてから幼稚園を休みがちになっており、最近は休みの方が多いと、ただ、登園する時や迎えに来た時の母子の様子からは、A君は実母に懐いていると感じるとの幼稚園からの情報。市の子育て関連部署からは、検診等も受けており、A君に対する指摘事項はなく、相談歴もないとのことでした。
一時保護したあと、心理司はA君と面接。最初は話を聞いたが、特に家族に対する不満は出てこなかったこともあり、後半プレイルームで遊ぶと、妹とA君、実母を思わせる人形を選び、人形のA君が妹をいじめ、実母から怒られたA君が家の外に遊びに行くという場面を再現しました。これを見た心理司は、家の中で実母がA君を叱ることで、A君は公園へ遊びに行くしかない状況だったのではないかと感じました。とすると、このまま家に帰っても同じ事が起こってしまうのではないかと心配になり、そのことを福祉司に伝えました。
一方、福祉司は実母との面接で、A君が妹をいじめるので外に遊びに行くよう言っていたこと、公園から帰ってきた時に、足にあざがあることは分かっていたが、A君があざの処置を嫌がるので、そのままにしていたこと、幼稚園を休みがちだったのは、妹もいるので登園するための準備がなかなか時間通りにできないために結局休んでしまうことも多かったと話します。福祉司としては、A君が幼稚園に行けば、妹をいじめる機会も減るし、一人で公園に行くことも少なくなるので、通告にあるような事態(この事例で言えばネグレクトがメインでしょう)が再発しないためには、A君がコンスタントに幼稚園に行けるようにすることが大切だと実母に伝えます。また、近隣情報として、A君が公園でけがをして泣いていたので、バンドエイドを貼ってあげたという情報も聞きました。
福祉司としては、あざの原因が実母の身体的虐待ではない可能性が高く、幼稚園情報からも母子関係は良好であることから、再発を防ぐためには幼稚園にコンスタントに通うことと考え、上司とも相談してA君を家に帰しながら様子を見ていくという判断をしました。ただ、心理司が家に帰すことについて心配しているのは分かっていたので、ついつい家に帰す判断をしたことを心理司に伝えることを先延ばしにしていたら、会議の日がやってきてしまいました。
さて、心理司はA君の様子から、おそらく妹さんの誕生後、退行が始まったけれど、実母はA君の退行に対する対応がよく分からず、妹にいたずらするA君を妹から遠ざけることしかできなかったのではないかと思い、実母にA君の退行の意味と対応の方法(妹と変わらずA君も可愛いとA君に分かるように伝える事)を教える必要があるのではないかと思っていました。会議で家に帰ることを聞いて、驚きはしましたが、A君の退行についての説明は、家に帰ってからでも良いかと思いました。
ただ、前回書いたように、こうした、心理司と福祉司のあいだで起こりがちなことについては、そのままにしておくのは好ましくありません。やはり、パートナーとして仕事をしていく訳ですから、福祉司は心理司とのコミュニケーションを避けてはいけませんし、心理司もなるべく実現可能なかかわり方を考えていく必要があると思います。
福祉司としては、虐待対応という観点からすれば、再発防止が最優先の目的になるので、A君が幼稚園にコンスタントに通うことができれば、ネグレクトという事態の再発はなくなる可能性が高いと思われます。一方、心理司が大切にしようとする、より子どもが成長するためのかかわりという観点からみれば、A君の退行についての説明と母子関係の変化ということも実施できた方がよいかかわりだと思われます。
こうした職種によって、大切にしようとする観点が異なることを理解しておくことが、無用なトラブルを避けるために必要なことだと思いますが、異なる職種であるからこそ、お互い日常的なコミュニケーションを取ろうとする努力が大切だと思います。 この事例は架空のものなので、この先のことは分かりませんが、実母がA君を幼稚園に通わせることができれば、福祉司がイメージした展開になっていくでしょうし、できなければ、心理司がイメージしたかかわりを継続する必要が出てくるかも知れません。
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