#2 児童福祉司と児童心理司のあいだ

あいだシリーズ

今回は、児相の代表的な職種である「児童福祉司と児童心理司のあいだ」というテーマで話してみたいと思います。

「児童福祉司」、「児童心理司」と正式に書くのは大変なので、ここからは「福祉司」と「心理司」と略して書くことにします。

福祉司は、子どもとも面接しますが、主に保護者や関係機関と面接や連絡をする役割を担っています。心理司は、子ども担当であることが多く、主に子どもとの面接や心理検査の実施、検査結果を保護者に説明するなどの役割を担っています。

職員の中には、家族療法やサインズオブセーフティアプローチなどの実践をされていて、保護者や子どもと同席で面接されている方もいらっしゃるかも知れませんが、ここでは、児相で幅広く採用されている保護者と子どもの並行面接、具体的には保護者と福祉司、子どもと心理司が別々に並行して個別面接をしていることを前提に書きたいと思います。

ついでですが、このブログでは〇〇療法やサインズオブセーフティアプローチなどの技法的なことについては触れるつもりがありません。私自身、少しは勉強しましたが、他の方に教えることができる程の知識もスキルもあるとは思えませんので、技法的なことをお知りになりたい方は、別の研修等で研鑽を積まれることをおすすめします。

さて、並行面接実施後、福祉司と心理司は、それぞれの面接結果について情報を共有することになります。この時、大切なのが「見立ての共有」だと私は思っています。

「見立て」という言葉は、「アセスメント」だったり、(医学的な)「診断」といった言葉に近いものですが、ここでいう「見立て」については、「家族の中でどんなことが起こっているのか?について、情報を集めて・整理・分析して仮説を立て、家族へのアプローチ方法を考える」という意味で使いたいと思います。このままだと抽象的でわかりにくいので、ステップファミリーに起こりがちなことを例にして説明してみたいと思います。

まず、「ステップファミリー」については「再婚や事実婚により、血縁のない親子関係や兄弟姉妹関係を含んだ家族形態」と定義したいと思います。今日の例は「母子での2人家庭だった母が再婚したことにより3人家族になった」家族について考えてみます。子どもは4~5才の男の子と想定します。

これから書くことは、ステップファミリーに起こりやすい傾向のことを説明するだけで、ステップファミリーになると必ず起こるということではないのでご留意ください。

では、図で説明します。

再婚後、母BはA君が男性Cに懐いて欲しいと思うので、A君と男性Cの距離を近づけるために、自分(母B)がA君と距離を離れようとします。男性CもA君と仲良くなろうとA君との距離を近づけようとします。その結果、A君からすれば、本当は離れて欲しくない母Bがこれまでより遠くに行ってしまったような感覚になります。再婚までは母Bと2人で生活していた訳ですから、その距離はかなり近いものだったと思いますが、男性Cが同居することで、母Bが自分から離れてしまう不安を感じてしまったとしても不思議ではありません。そうなると男性Cに対して拒否的な感情を表現するようになるかも知れません。そうすると、男性Cからすれば、A君との距離を近づけようと努力してきたのに、A君から拒否的な反応をされては面白い筈がありません。場合によっては、つい手を出してしまうような暴力的な行為をしてしまうかも知れません。ここで、母Bが男性CにA君に対する対応の仕方を変えるように伝え(このことは、母BがA君の気持ちを推測し心理的な距離をA君に近づけるということです)、男性CもA君の気持ちを推測でき、A君に対する対応を変えれば、A君としても母Bが離れていく訳ではないのかなと感じることができれば、男性Cに対する拒否的な表現も少なくなるかも知れません。

ところが、こうしたA君の気持ちを推測しての柔軟な対応ができない場合、男性Cの暴力的な行為が、毎日ではなくても時々継続してしまう可能性が出てきます。その一つがあざができるようなものとなり、幼稚園から児相に通告が来るようなこともあり得ます。

こうした経過があって、児相での面接となり並行面接後の福祉司と心理司の情報共有はとても重要です。もし、福祉司なり心理司がこれまで説明してきたようなことを知っていて、かなり当てはまる部分が多いと判断できれば、これまで説明してきたようなことが見立て(仮説ですね)となります。でも、当てはまっていない部分もあるとすれば、この家族にはどんなことが起こっていたのかを確認していく必要があるということになります。こうして保護者と子どもとの面接情報から、今後、確認していく必要がある情報をお互いに確認することができますし、見立てに基づいてどのようなアプローチをしていくかを検討し実施することもできるようになります。この事例で言えば、概ね見立て通りだとすれば、A君と母Bの距離を近づけることが目標となります。

見立ての共有ができていない場合、時々起こるのが、保護者の面接では、前回の面接以降、どんなことがありましたか?と起こったことだけに焦点をあてて面接が終了してしまい、子ども面接では、男性Cに対する不満を子どもが表現するので、A君は男性Cを嫌がっているので、A君と男性Cが仲良くなる方法を保護者面接で考えてください、と心理司が福祉司に伝える、みたいなことがよく起こります。こうした心理司からの具体性のない問いかけは、福祉司にとってはプレッシャーとなり、保護者面接の中で何とかA君と男性Cを仲良くさせるということがテーマとなり、結果的に母Bが行っていたこと(A君と男性Cとの距離を近づけるため、母BがこれまでよりもA君との距離を離してしまう)をより強化してしまい、A君の拒否反応がエスカレートしてしまうという悪循環になりかねません。

「見立て」を共有することは、福祉司と心理司、双方が、お互い何をしようとしているかを理解することにもつながります。

今日の投稿は、ここで終了しますが、「見立てを共有する」ということは、口で言うほど簡単なことではありません。福祉司、心理司、双方が自分なりの見立てを立てることができるようになる必要がありますし、それを共有しようとした時に、同じならよいですが、違う見立てを立てていた時に、どうするかということもあります。見立てについては、また、どこかで触れることができたらと考えています。

 

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