今回は「児相と保護者のあいだ、その2」ということで書いていきたいと思います。
2年前の第2回は、保護者と児相のあいだについて虐待事例を中心に書きました。簡単におさらいすると、2000年に虐待防止法が制定されてから、児相は相談ニーズに応じた支援から、虐待を認定すること、虐待が再発しないように指導すること、虐待の再発がないか監視すること、といった役割を持つようになり、虐待事例については、保護者とは対等な関係ではない役割として機能するようになったことを書き、児相職員は虐待事例においては、最初から相談の構造として保護者とは対等ではないことを意識しておくことが大切ではないかと書きました。
また、虐待防止法制定と同じ時期、社会福祉基礎構造改革ということで、支援者と支援を受ける人が対等であることを現場ではどう具体化していくのを模索しており、この社会福祉基礎構造改革と虐待事例に対する児相の支援者に対するスタンスの違いは、児相に大きな影響を与えたことも書いたと思います。
混乱した現場では、虐待事例に対して、保護者との対等性をどう考えるかという模索も始まりました。考え方として分かりやすかったのは、虐待防止法という法律の前では、支援者と保護者は対等であるとの考え方でした。どういうことかというと、虐待防止法では、保護者は虐待行為をしないように求められ、支援者はその手助けをすることを求めているので、法律が求めているのは、保護者と支援者は「虐待行為がない養育の実現」を求められているという点では対等だという考え方です。そうした法律上のことを保護者が理解できれば、保護者と支援者が協働することはできると考えます。そのためにはまず、虐待事例の保護者へ、今、虐待防止法に照らすとこういう状態にあるのです、ということを丁寧に説明することが必要となります。
今現在の児相が虐待事例の保護者に対してどのような説明をしているのか私は知りませんし、自治体によっても異なるかも知れません。その後、登場してきたのが「サインズ・オブ・セーフティ・アプローチ」だと思いますが、これも取り入れているところとそうでないところとがあるでしょうし、「サインズ・オブ・セーフティ・アプローチ」そのものが進化しているでしょうから、現在の実態は知りません。
ただ、どのようなスタンスで保護者にアプローチするにしても、保護者を尊重する姿勢が児相になければ、保護者との関係がぎくしゃくする可能性が高くなると思います。どうしてかというと、子どもを尊重しない姿勢の保護者は、保護者自身がそれまでに尊重されないような経験をしていることが多いと思われるからです。例えば上下関係で対人関係を作ってきた人達は上下関係に敏感です。自分が児相から指導されていると感じれば、児相が自分の上にいると感じてしまい自分の方が上に立とうとする動き(例えば、児相から指摘されたことを否認して間違っていると主張したり、児相のやり方を批判したり)をし始め、子どもへのかかわりより、児相との上下関係を変化させることが目的になってしまう可能性が高くなるからです。
虐待行為がない養育をするのは保護者です。24時間児相や関係機関が見張っていることはできません。保護者に子どもへのかかわりについて主体的に考えて欲しい訳ですから、児相との上下関係にエネルギーを向けるのではなく、子どもへのかかわりについて具体的に考えていくためには、保護者が尊重されていると感じるような児相の姿勢が大切だと思います。
ただ、この「尊重する」ということが、虐待事例において具体的にどういうことなのかをイメージすることが難しくなっているような気がします。児相としては虐待行為を疑っている訳なので、保護者の言うことをすべて認める訳にはいきませんし、どうしても指導的(上下関係で言えば児相が上に立つ)な立場に立ちやすいのです。かといって、保護者の養育姿勢や方法を否定ばかりしていては、保護者が自分のことを尊重されているとは感じにくいものです。
では、どうするか?「尊重する」ということは、支援者が目の前の保護者と同じ立場(経済状況だったり、周囲との関係性だったりを含めて)だったら、どのように感じるかということを想像しながら話を聴き共感できる部分は保護者にフィードバックしていくということです。このあたりが、虐待対応マニュアルのようなものでは書きにくい部分で、言葉として「保護者の立場に立って」と書かれていても、目の前に保護者がいると、児相として指導するようなことが優先されがちであることも多いような気がします(言っておかないと上司に怒られますからね)。でも、マニュアルに書いてあることをそのまま保護者に伝えても、保護者がそれに従おうという気持ちになるかどうかは別のことです。
結局は、保護者からの話をよく聴き、保護者の今の状況を理解しようとする児相の姿勢が保護者との関係を作っていく基礎なのだと思います。まずは保護者が話すことを理解しようとすること、保護者に関心を持っていると姿勢で示すことです。ここで大切なのは、聴いているふりではなくて、本当に保護者に関心を持つことです。保護者の話を聴くときに、色々なスキルを使うこと(例えば、先ほど書いたサインズ・オブ・セーフティ・アプローチ)がノーということではなく、どんな考え方やスキルで保護者と向き合うかは別として、「保護者の話を関心を持って聴く」という姿勢がベースにあることが大切なことではないかと思います。
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