#76 児相内での他専門職とのあいだ

あいだシリーズ2

今回は、児相にいる福祉司や心理司、相談員といった昔から配置されている職種とは異なり虐待防止法制定以降、新たに配置された職種とのあいだについて書いていきたいと思います。

新たに配置された職種というと、保健師、弁護士、警察官、児童精神科医(以後、ドクターと呼びます)といった職種が挙げられます。ただ、このうちドクターについては、ずっと以前から特別児童扶養手当のための診断書を書いて貰ったり、医療相談のような形でかかわってきた経過があるので、他の職種とは少し違った側面がありますが、ドクターは月1回ないしは2回、いわゆる嘱託の形で決まった仕事をしてもらうというものでした。

虐待防止法以降、職種によって配置された年は異なりますが、児相の意思決定システムである援助方針会議に出席するようになった職種は、先ほど挙げた、保健師、弁護士、警察官、ドクターではないかと思います。ただ、援助方針会議に出席する職種は、自治体によってあるいは児相によっても異なるかも知れません。

神奈川県の場合、私が知っている限りでは、保健師(常勤職)や弁護士(非常勤職)はどの児相でも援助方針会議に出席していたと記憶していますが、警察官は中央児相だけでしたし、ドクターも中央だけが常勤職だったので援助方針会議にも出席していましたが、他の児相は嘱託の形だったと思うので、援助方針会議にまでは出席していなかったのではないかと思います。

さて、それらの中で保健師は、衛生・保健と福祉という専門性の違いはあるにしろ、児相の職員と同じ県の職員であること、また、児相に配置されたとはいえ、児相の中では圧倒的に数が少ないこともあり、保健師の方から福祉領域を理解しようとし、保健師として児相の中で何ができるのかを模索していた印象があります。言い換えれば、保健師の方から福祉領域に近づいてきてくれた印象があります。

ところが、と言っては語弊がありますが、弁護士、警察官、ドクターについては、福祉領域とは異なる高い専門性を持ち、警察官は別ですが、弁護士やドクターは社会一般では「先生」と呼ばれるような立場の人たちです。そうした人たちが援助方針会議に参加するようになったのは、ひとえに虐待ケースの複雑さがあるからだと思いますが、閉鎖的だった児相の援助方針会議が少しはオープンになるためには必要なことだったと思います。

以前の援助方針会議は福祉職だけで構成され、福祉的観点だけで物事が決定されていったのですが、虐待という事態は福祉的観点だけでは対応しきれない側面があり、弁護士やドクターの助けが必要になってきました。このうちドクターに対しては、医療という専門から保護者や子どもがどのような状態にあるかとか、その時点以降のかかわりについての意見を求めましたが、先ほど指摘したように、ドクターは以前から児相とはかかわりがあったこともあり、福祉的観点も考慮に入れながらアドバイスをくれるドクターも多かったような気がします。また、医療領域と福祉領域は重なる部分も多いので、援助方針会議への参加についても大きな違和感は感じなかったような気がします。

虐待ケースの増加によって、虐待対応のためには他の機関とのネットワーク化が必要となり、そのためには守秘義務を課した上での情報の共有化も必然になっていきました。児相は、虐待に関するネットワークの中核機関になったことで、機関としてオープンになるような変化を迫られてきた印象があります。虐待による死亡事故があちこちで明るみに出たことで、恣意的なというか福祉的観点が主となる児相の動きに対する社会の目も厳しくなり、虐待対応については裁判所が絡むようなことも出てきて、法律に照らしながら児相の動きを検討することも増加していきました。その意味では、弁護士が児相の動きに絡むようになるのは必然的な動きで、児相側も自分たちを守る意味も含めて法律的な視点を求めた側面があると思います。

法律という分野は、福祉の現場からすると遠い世界だったので、実際に仕事をする上で法律を意識するということはありませんでした。ところが、虐待対応では、児相の動きに対して保護者のあるいは社会からの目を意識せざるを得ないようになってきて、自分たちの動きが法律に照らしてどうなのかを確認しなければいけなくなりました。そうした経過からは、援助方針会議に弁護士が参加することも必然的な動きだなあと感じます。

ここからが、今日のテーマで言いたいことなのですが、それまでなじみの少ない法律という領域のことを考える必要が出てきた児相にとって、弁護士の言うことが、すべて正しいと感じてしまうようなことが起こっていないでしょうか?あるいは、福祉的観点をちょっと横に置いてしまうというような事が起こっていないでしょうか?

弁護士は自分たちの上にいるのではなく、横にいて対等な関係であることを私たちは意識する必要があると思うし、私たちが福祉の専門家であることを忘れてはいけないのではないかと思います。弁護士は、法律に照らしていいことと悪いことの区別はしてくれますが、悪いことをしないための方法を教えてはくれません。悪いことをしない方法を考える(これは児相だけでなく保護者と一緒になるかも知れませんが)のは福祉の領域だと思うのです。  「多職種協働」と言葉で言うのは簡単なのですが、お互いの専門性と限界を理解した上でお互いを尊重しながら同じ目的に向かって働いていくのだけれど、職種に上下はなく対等なのだという視点を自分たちが持っていることが必要だなあと思います。

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