#78 虐待対応と相談機能のあいだ

あいだシリーズ2

今回は、虐待対応と相談機能のあいだというテーマで書いてみたいと思います。

児童相談所は、1947年の児童福祉法制定によって、戦後の社会混乱期に対応するため、児童の福祉に関する専門的な相談援助・指導・一時保護などを行うことが目的で設置されました。私が初めて児相に勤務するようになったのは1988年ですから、設置から40年以上経ってからということになります。もちろん、もう戦後の混乱期ではありませんから、いわゆる浮浪児と呼ばれたような子どもはいませんでした。私が初めて担当した子どもは不登校のお子さんでしたが、非行関係のお子さん(児相の種別で言うと「触法」と「虞犯」です)の相談が少し下火になってきた頃だと思います。その後、不登校のお子さんは増加しましたが、教育の中でも居場所作りが盛んとなり、不登校のお子さんが減少することはなかったけれど、児相への相談は減少していきました。その後、ADHDや学習障害、広範性発達障害と呼ばれる(今では発達障害に中に含まれますが)障害が社会的な注目を浴びるようになり、児相への相談もありましたが、こういうお子さんたちには、どちらかと言えば医療での診断と服薬や教育の中での対応方法の方が注目されていたような気がします。

ところが、2000年に最初の虐待防止法が制定(本当は1933年に最初の児童虐待防止法が制定されましたが、先ほど言った1947年に児童福祉法が制定されたことにより廃止されました)されたことにより、それ以降、児相の性格が大きく変化せざるを得なくなっていったと思います。

それまでの児相は、18才までの子どものことならどんなことでも相談を受けます、という機関でしたが、相談件数が一番多かったのは障害相談で、施設入所などの相談もありましたが、多くは療育手帳の判定と特別児童扶養手当の診断書作成事務(診断書は医師に書いて貰っていましたが、予約することやDrに診断書作成をお願いする前の子どもの説明などが事務的な仕事の内容でした)が障害相談の主なもので、数も多かったため、児相は「どんな仕事をしているの?」と仮に外の機関から問われれば、この頃は障害相談が主なものです、と答えたかも知れません。ただ、療育手帳や特別児童扶養手当のための事務は、1回だけのことが多く、継続的な面接を行っているのは、養護相談、育成相談、非行相談だったと思います。

虐待防止法制定後、何回かの法律改正を経る中で、神奈川県では平成27年度頃から障害相談と虐待を含む養護相談の件数が逆転するようになり、そのままの傾向が今でも続いています。今、仮に外の機関から児相は「どんな仕事をしているの?」と聞かれれば、迷うことなく「虐待対応をしている」と答えるでしょうし、社会一般の人の印象も児相は虐待対応をしている機関と感じているのではないかと思います。

虐待相談件数が毎年右肩上がりで増加するに伴い、児相は虐待対応を専門とする機関とし、いわゆる育児や養育相談は市町村に担わせようとする動きがあったように記憶しています。

しかし、現時点でも神奈川県の児相では「児童相談員」という職種が存在し、児相に通う保護者に対する面接を行っています。就学前までの育児や子どもの健康についての相談に関しては保健センターなどで資格職である保健師さんが相談窓口になっていると思いますが、それと比較すると、子どもの年齢が高くなってからの養育相談(それこそ不登校や非行や発達障害を含む障害相談など)に関しては、市町村の養育相談窓口というのは設置されてはいるものの、(おそらくではありますが)非常勤の職員が相談窓口であることが多く、また、上司は特に専門家でもないため、「養育相談」をどのように進めていけばよいのかを明確に認識している市町村は少ないような気がします。全国に関することなので、特に守秘義務に関することは、(これもおそらくですが)都会から離れると相談する人と相談を受ける窓口職員の距離が近すぎてしまうようなことも想定され、そういう意味では広域を担当する児相という機関が養育に関する相談窓口として機能しているのは大切なことではないかと私は思っています。

虐待対応はどうしても、保護者に対して、事実確認、注意喚起、再発防止のための監視や指導といったことをやらざるを得ず、保護者からの「相談に応じる」という相談活動自体が難しくなってきています。とはいえ、たとえば神奈川県の令和5年度の統計では、虐待受理件数のうち約1割を一時保護していて約9割は在宅のままです。今の児相は、このまま子どもを家に置いておくことは何等かの理由で危ないという判断があるから一時保護する訳です。でも、一時保護したケースでも調査の後、家に帰すことも多く、結局施設や里親にお願いするのは全体の約1%という結果になっています。ということは、虐待受理件数のうち約99%は在宅しているということになります。この在宅ケースのうちすべてのケースに相談ニーズがあるとは思えませんが、理由はともかく養育に困っているケースはある筈です。  その意味では、先ほども触れたように、市町村の相談窓口へ相談できるのであれば、それでよいと思いますが、そうでない場合、児相の相談機能が残っていないと困ることになるので、今後も児相の相談機能は残しておいて欲しいものだと感じています。

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