#4 児相と施設のあいだ

あいだシリーズ

今回は、「児相と施設のあいだ」というテーマで書きますが、施設といっても様々な施設があるので、今回は「児相と児童養護施設のあいだ」というテーマで書きたいと思います。

「児童養護施設」というのは長いので、これからは「施設」とします。

児相と施設のあいだについて書く時には、大きな違いは「保護所職員とのあいだ」で書いた時と同じように、施設は「子どもの生活」を見ているということです。保護所の生活でも書いたように、施設でも、集団生活をしており、他の子どもや職員とお互いが影響し合って、社会を形成しているのも同じです。

私が若かった頃は、子どもが施設に入所すると、子どもへの関わりは一段落で、施設入所後は、しばらくは施設にお任せするという印象がありました。福祉司は、定期的に施設に行き、子どもの様子を聞いておくことはしていたでしょうが、心理司は、施設に入所した子どもと、再度会う機会は、子どもが施設の中であるいは外で不適応行動を起こしたような場合に限られていたように思います。

でも、最近は、虐待を受けてきた子どもが入所することが多くなり、入所前から施設での集団生活では、何らかの不適応的な言動を起こすだろうと予測することも多くなり、心理司は入所時から継続的に子どもと会う約束を施設とするようになってきています。

そういう継続的な面接で、施設での集団生活に適応できればよい訳ですが、なかなかそうはいかないことも多くあります。

施設に入所した子どもが、施設内あるいは施設の外で不適応的な言動が出てきた場合、児相としては、まず、子どもに何が起こっているのかを探っていく必要があります。

この時に、気をつけなければならないのが、子どもは施設で集団生活をしており、他の子どもや職員と相互に影響し合っているということを忘れてはいけません。

児相の職員は、ともすると、子どもの生育歴から施設入所以前に受けてきた心の傷に焦点を当てがちです。そのことは間違っているとは思いませんが、施設職員が知っているのは、施設入所後の子どもの姿なので、生育歴からくる心の傷は、あることは想定していても、どうしても現実の生活の中で起こってきている出来事から、子どもの状態を見ようとしてしまいがちです。

なので、児相から見ると、子どもが起こしている言動は、生育歴上で足りなかった部分(例えば、保護者からの愛情が十分ではなかったので、施設職員から愛情を与えて欲しいといったこと)を、施設職員に補って欲しいと思いがちです。ところが、施設職員としては、現実的にでき得る限りの対応をしてきていると感じていることが多く、毎日の子どもの生活から、色んなトラブルを起こしてしまう子どもの元々の性格と生活に主な原因があると感じることが多いので、他の子や職員を刺激してしまう子どもを変えて欲しいと感じていることが多いのです。

児相および施設職員が感じていることは、どちらかが間違っている訳ではありません。子どもの異なる部分を見ている訳ですから、お互いがそのままの認識では、子どもに起こっていることについて合意できることが難しくなってしまうのです。そうなると、児相職員と施設職員が、それぞれ自分の思いだけで子どもに関わることとなり、子どもに対する姿勢が異なるので、大人側の関わりがバラバラになることで、子どもからすると、大人側からのメッセージが異なるので、どうすればいいのか分からないということが起こったりします。

子どもに起こっていることは、生育歴上で起こったことがベースとなって、現在の現実生活の中で、過去を思い出すような出来事があると、過去に本来ならやって欲しかったことを、現在の生活の中で求めようとすることが起こっているかも知れません。

例えば、その子が第1子だったとして、第2子が生まれることで、退行(自分も第2子のように保護者に甘えたい)したいのに、それが許されなかった場合、子どもは、自分より年下の子が生まれると、自分は保護者に甘えたいのにそれを我慢しなければいけない、という体験をすることになります。そうした体験がベースにあって、施設入所後、一定期間、職員に甘えることができたけれど、その後、自分より年下の子どもが同じ生活寮に入所してきた場合、これまでと同じように職員に甘えたいのに、職員はどうしても年下の子どもの相手をせざるを得ないような場合、その子どもは、家庭で退行できなかった体験を思い出し、でも施設では職員に甘えたい気持ちが強い時、職員が年下の子どもの相手を優先させようとした時に、職員に対して反抗的な言動をする可能性が出てきます。そして、反抗的な言動がエスカレートすると、施設から児相に連絡がくるようなことが起こります。

児相は、生育歴上、その子どもが退行できなかった過去を知っているので、短時間でもいいので甘えさせてあげて下さいと施設に話すけれど、施設職員としては、目の前で年下の子どもの相手をせざるを得ない状況の中では、その子どもを甘えさせることはできないし、もう、それなりの年齢なのだから、職員に甘えるのではなく、自分でできることはやって欲しいと感じている(しかも、年下の子どもが入所するまではできていたような場合)ため、児相が言う、少しでも甘えさせることは子どもの自立を妨げるのではないか、と感じたりするのです。

このように、児相と施設は子どもを見ている視点が異なる可能性があることを認識し、子どもに起こっていることを共有し、その上で、現実生活の中でできそうなことは何かを探っていく必要があります。これが可能になるためには、児相と施設の間で信頼関係がなければ、成り立たないため、日常的な施設とのコミュニケーションがとても大切になってくることを児相は認識しておく必要があると思います。

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