#5 児相と里親のあいだ

あいだシリーズ

今回は、「児相と里親のあいだ」というテーマで書きます。

児相と里親さんのあいだについては、まず制度的な面から書こうと思います。

民間で里子斡旋の事業を行っている所もありますが、里親制度というのは、公的には児相が、里親の募集、調査、研修、支援等を行うことになっています。

里親さんになりたいという方からの連絡があると、私が所属していた自治体では、里親担当という役割の職員がいて、里親制度の説明をするところから始まっていたと思います。説明を聞いた後、やはり里親になりたいというのであれば、研修を受けて貰ったり、児相が家族のことなどを調査し、社会福祉審議会等で検討し、知事が里親として認定をすることになります。認定そのものは、児相が行うものではないのですが、応募の窓口や調査を実施するのは児相ですし、もし、お願いしたい里子の候補が出てきた場合には、「マッチング」と言って里子と里親さんが上手く関係を作っていけそうかどうかを評価するのも児相の仕事となります。ですから、里親さんの受け止めとしては、児相が里親認定だったり、里子をお願いする鍵を握っていると感じることになります。

里子を委託した後、里親と委託児の関係が上手くいっていればいいのですが、時に、関係が上手くいかないことも出てきます。この場合、里親さんからすれば、委託された子どもとの関係が上手くいっていないことを児相に伝えるのは、おそらく抵抗があると思います。なぜなら、児相が里親認定や委託時の評価をしていると思っているので、児相に相談してしまうと、児相に里親失格と思われてしまうのではないかとか、場合によっては里子の委託を止めさせられることになるのではないかというようなことを心配してしまう可能性があるからです。

このように、里親認定の窓口やマッチングの評価をする機関と里親の相談に応じたり支援をする機関が同じということは、制度上仕方のないことですが、里親さんが困った時に、児相に相談しにくい制度上の構造があるということの認識と、児相職員としては、里親さんから相談があった場合には、里親さんは、これまで書いたような葛藤を超えて、児相に相談してくれているのだということを認識しておく必要があると思います。

もう一つ、里子の相談には通常の相談とは異なる点があります。それは、里親―里子という関係そのものに難しさがあるということです。子どもに里子であることや親が里親であることを子どもに伝えることを「真実告知」と言いますが、仮に、真実告知を行っておらず、里子との関係が上手くいかなくなった場合、里親側に「やはり、血がつながっていないから(つまり里親だから)上手くいかないのかしら」という意識が、どうしても働きやすくなります。

真実告知を行っている場合、里子、里親共に、血のつながりがないことを意識してしまいます。里子からすると、自分は里子だから、自分が期待するような関わりをされないのかも知れないと思ってしまう、というようなことです。

これら、里親、里子双方の「里親だから、里子だから」という思い自体は、実は実際に起こっていることとは、関係ないことの方が多いです。ただ、双方のそういう思いが、事態をより複雑にしてしまうということはあります。なので、かかわる児相職員としては、里親、里子が「里親だから、里子だから」という思いを持っているのかどうかを慎重に探っておく必要があると思います。

そういった思いが起こっている事態に影響が少ないことが確認できれば、家庭の中で何が起こっているのかを観察して見立てを立て、見立てに応じた関わりをしていけばよいことになります。

里親-里子関係でも、一般的な親子関係で起こっていることと変わらないことがほとんどだと思います。それくらい、里親-里子関係は心理的な距離が近く、例えば、前回の「児相と施設のあいだ」で書いたような施設での生活とは異なり、同じ人(里親)が、24時間、そばにいるという関係は、施設ではあり得ないことです。

それだけに、関係が上手くいかないような場合には、里親、里子、双方ともに感情表現が強くなることが多く、トラブルもエスカレートしやすくなります。

また、里親には「親」として「里子」に対する期待があるだけに、里子側からすると、その期待には応えきれないという思いになることもあります。

ということで、これまで書いてきたように、里親―里子関係には、他の事例にはない要素があるので、児相職員としては、里親-里子関係の特殊な事情を考慮しながら、関わっていくことが大切だと思います。

 

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