#6 児相と学校のあいだ

あいだシリーズ

今回は、「児相と学校のあいだ」というテーマで書きます。

児相と学校のあいだについては、(最近は高校生の相談も増加していますが)今回は主に小学校を念頭に書きます。

児相と学校とのあいだについて考える時、気にしておいた方がよいのは、児童福祉と教育という文化の違いについてです。

これまでの動画で触れてきたのは、児童福祉の範疇の中でのことでしたが、今回は学校ということで、前提となる法律から異なる分野との連携が課題になります。

児童福祉は、児童福祉法第1条の2項に(すべて児童は、ひとしくその生活を保障され、愛護されなければならない。)とあるように、平たく言えば、対象となる子どもの生活の支援を目的とします、教育は、教育基本法第1条に(教育は、人格の完成を目指し、平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた心身ともに健康な国民の育成を期して行われなければならない。)とあるように、平たく言えば、次世代を育てていくために、対象となる子どもが知らないことやできないことを教えていくことが目的となると思います。

この違いは現場の中では、思っているより大きいものです。例えば、虐待事例を考えた場合、児相は保護者に「虐待行為を止めて欲しい」と望む訳ですが、学校は保護者に「子どもがきちんと教育を受けられるようにして欲しい」という期待を持つことになります。

もう少し言うと、児相は「教育は別にしても、虐待行為を止めて欲しい」と思うし、学校は「虐待行為は児相に任せるけれども、子どもが教育を受けられるようにして欲しい」と思う訳です。学校からすると、子どもが教育が受けられるのであれば、場所は問わない、という姿勢になります。

こうした文化の違いを認識しておかないと、児相からすると、どうして学校は虐待行為に対して、もっと保護者にアプローチしてくれないのかというような不満を感じたり、学校からすると、今、十分に教育を受けられないのであれば、なるべく早く教育を受けられるような環境にして欲しいという不満を持つ可能性があります。

虐待行為を受けないことや教育を十分に受けられる環境を作ることというのは、両方とも、子どもが成長していくためには大切な側面です。しかし、かかわる大人達が、自分が属している組織の役割と限界を分かっていることとか、一緒にかかわる他の組織の役割と限界を尊重する姿勢がなければ、起こってしまうのは大人側のぶつかり合いであり、そのしわよせを受けるのが子どもということになりかねません。

私が経験してきた中だけで言うと、学校の先生というのは、とても真面目で一生懸命な方が多いのですが、児童福祉にかかわるようなことを経験してきている方が少なく、どうしても子どもの教育が一番大切と感じ、他の機関の役割や目的、あるいは限界というものをあまり考慮しない、つまり学校以外の機関のことをあまり知らない方が多かったように感じていました。

最近は、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーといった、教育以外を専門とする人が入っていることで、外部機関に関する理解もすすんでいるように思います。

一方で、児相も虐待防止法制定以前は、外に向かっては閉じた組織だったと思います。外部機関からの情報は得ようとするけれども、個人情報を理由として児相の情報は極力出さないということが多く、外部機関からは、児相は何をしている組織なのかよく分からないという声もよく聞きました。

虐待防止法制定後、関係機関と連携することを求められたこと、虐待事例への対応の中で守秘義務の範囲が広がったことで、いわゆるネットワーク会議などで、関係機関と情報を共有するようになり、随分、開かれた組織になってきたと感じます。

もう1つ、学校は担任の期間が1~2年なので、担任の先生が関われる期間の中で、何とかしたいという思いが強い傾向があるように思います。その気持ちは理解できるのですが、ともすると、変化の速度が遅いことで、他の機関への不満につながりやすい傾向もあるように思います。

児相では、転勤するのは、平均的には3年から5年ですし、一度、担当となると、次の年度も担当することが多いので、学校と比較すると、もう少し長い期間を見通してかかわることができる状態にあります。また、自分が担当している間に何とかしようというよりは、子どもや家族の状態に合わせた関わりをしようとする傾向があると思います。

これらのことも、どちらが良いか悪いとかということではなく、それぞれの機関の役割や文化の違いということなのでしょう。

いずれにしても、組織には、その組織なりの文化がありますし、特に前提となる法律が異なる場合には、文化の違いは大きいものになります。児相としては、学校は、よく連携する組織なので、教育の文化をよく知った上で連携していくことが大切だと思います。

 

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