#7 福祉司と心理のあいだ2

あいだシリーズ

今回は、「福祉司と心理司のあいだ、その2」ということで、「#2の福祉司と心理司のあいだ」で書いた「見立ての共有ということ」について書きたいと思います。

#2の「福祉司と心理司のあいだ」で書いた時には、ステップファミリーに起こりがちなことを例としてあげて、「見立ての共有」が大切であることを書きました。

見立てというのは、最初から完全なものを目指すものではありません。対象となる保護者や子どもにどんなことが起こっているのかを、とりあえずと言うと語弊がありますが、もしかしたら、こんなことが起こっているんじゃないかと仮説を立てて考えてみるということです。前回の場合は「ステップファミリーに起こりがちなこと」というのが仮説でした。

今回は、見立てを共有していた方が、お互いが支援をしやすいということについて書きたいと思います。

前回の例の場合、児相がかかわるようになったきっかけは、幼稚園から身体的虐待の通告があったことでした。通告時点では、子どもにあざがあることしか分かりませんから、保護者(#2の例では、実母と養父でした)から話を聞くことから始まります。保護者によって反応は様々ですが、今回は、養父が子どもの反抗的な態度に感情的になって、つい手を上げてしまったことを認めたとしましょう。ここで、あざが、それほど重篤なものでなく、また顔面などの危険な場所でなければ、児相としては再発防止策を一緒に考えましょう、といった提案になると思います。保護者がそれに同意すれば、(回数はともかく)継続面接の開始となります。

再発防止策は、まずは保護者に考えてもらうことになりますが、一般的には、子どもが反抗的な態度を示しても暴力をしないようにする、といった反応が多いかと思います。この先は、状況によって様々な方法を取ることになると思います。養父の言葉が信じられるようであれば、次の面接までに再発がなければ、注意喚起で終了とすることもあるでしょうし、次に子どもが反抗的な態度を取った時に養父がどのような行動を取るのか具体的にイメージして実際にやってもらうといったことを提案する場合もあるでしょう。そういった方法は心理司が関わっていないのであれば、一般的な方法だと思います。ただ、もし、心理司も関わっている事例だとすると、これらの方法の話し合いは、保護者と福祉司のあいだだけで起こることになり、子どもの話を聞いている心理司とは共有されにくい内容になります。もちろん、福祉司から心理司に説明すれば、何をしようとしているのかは分かりますが、そこに心理司が役割を持つことはなく、心理司としては保護者と福祉司が話したことを見守るしかありません。

ここで、もしステップファミリーに起こりがちなことという、見立てを共有するということがあれば、福祉司は保護者面接の中で、例えば見立てが成り立つかどうかを確認するために、再婚以前から、養父、実母、子どもそれぞれがどのような言動をしてきたのかを確認するといったことが起こるでしょうし、心理司も子どもとの面接の中で、実母が再婚しようとすることによって、子どもにはどんな気持ちの変化が起こったかを確認することが起こるでしょう。

このことは、福祉司、心理司双方が、それぞれの面接の中で、見立てが成り立つかどうかを確認するために行っている内容であると理解することができますし、面接の結果によって、さらにどんな情報が必要かを確認したり、あるいは、今回の見立てとは異なる情報があるのであれば、見立てそのものを修正していく必要もあるかも知れず、それらのことも福祉司、心理司双方が理解して支援の方向を検討していくことができます。

このように、完全な見立てではなくても、福祉司、心理司が見立てを共有することで、お互いが何をしようとしているのかを理解することができ、また、その修正も一緒にすることができるようになります。

つまり、見立てをするということは、その家族に何が起こっているのを理解しようとする手がかりになると同時に、異なる職種である福祉司と心理司が協働して支援していくための土台を作る作業であるとも言えます。

今の児相は、虐待事例が多く、虐待事例に対応するためのマニュアルはあります。しかし、現実の家族というのは、一つとして同じ家族ではないので、マニュアル通りには行かないことも多いものです。マニュアルは、基本的なことを教えてくれるもので、大変重要なものではありますが、マニュアルだけですべての家族への支援ができる訳ではありません。

また、虐待事例というのは、関係機関と協働で対応していく必要があります。その際に、児相内で福祉司と心理司での意思疎通ができていなければ、児相以外の関係機関との協働もうまくいかなくなる可能性が高くなります。

繰り返しになりますが、目の前の現実の家族にどんなことが起こっているのかを見立てていくという作業は、その家族への支援方法を探る手がかりになると同時に、異なる専門家が協働する際に、お互いがお互いを理解していく土台をも作っていく作業なのだということを認識しておくことが大切だと思います。

 

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